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RYUTA SUZUKI's BLOG

蘇州とアートのコモディティ化

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蘇州とアートのコモディティ化

蘇州は上海から高速鉄道で1時間という地の利と、絹などの繊維産業や、上海蟹の養殖など地元経済を支えていた伝統産業に加え、政府の投資政策の効果でハイテク関連の企業誘致に成功した中国第6位の経済都市である。東洋のベニスとも例えられる水の都としても有名だ。

経済活動が盛んであるこの都市では文化事業も近年力を入れ始めているようだ。蘇州語という地域の言葉を学校教育に取り入れている教育施設も多いという。この都市で耳にするアート関連施設は、本色美术馆、金鸡湖美术馆、巴塞当代美术馆、寒山美术馆、梵融美术馆、鹿人画廊があげられる。

本色美术馆
この美術館は、陈翰星という個人投資家が”21世紀の東洋の美学”を掲げ設立した美術館である。そのコンセプト通り建築やインテリアは洗練された現代東洋式のデザインとも言えるもので木や竹、漆喰などが素材として強調されるものだった。

中国に来て中国らしい現代アートは何かないのかと考える人にとって、”それらしいもの”として端的に思うのは水墨画の現代版だろう。そういうアーティストは例えばこのブログでも紹介した徐冰を始め様々に見受けられる。墨は中国芸術のアイデンティティと言っていいもので、中国の現代の表現者もそれに自覚的だ。そのような外からの期待と美術館のコンセプトをつなげる作家たちが本展覧会「六根」でも紹介されていた。

(室内から覗く風景は蘇州の風情を醸し出す。)

(演劇が行える室内ステージ。)

金鸡湖美术馆
「CROSS DOMEIN」は日中の若手作家を紹介する展覧会だ。金鸡湖の辺りにある大型文化施設である蘇州文化芸術センターに内設されたこの美術館はなんとなく森美術館を彷彿とさせた。

紹介されていた日本人作家は主に東京芸大の先端芸術学科に関係のあるメディアアート系の作家たちであった。なぜ蘇州の美術館がそのようなメディアアートを取り扱うのか、そして日本の作家に焦点を当てた理由はなんなのかを考察するのは興味深い。このところ蘇州に限らず、日中友好を掲げ様々な文化交流がなされている。2012年の尖閣問題をピークに反日感情が高まり、長く日中関係は冬の時代であったが、日中友好平和条約締結40周年の2018年をきっかけに政治も民間も交流の幅を広げている。今話題の米津玄師も3月に上海公演を控えているとのことだ。そうした中、蘇州には日本人学校もあるほど、日系の企業が工場などを構えている。そこに美術交流を目指す美術館があったとしてもそれは自然なことだ。

ではなぜメディアアートなのか。実はこの部分がキュレーションからはあまり見えてこなかった。しかし後述するように何か目新しいように見える(いわゆる絵画や彫刻などではない)作品を展示することそのものがこの都市が欲していることなのかもしれないとも思えた。

(大型文化センター内にある金鸡湖美术馆。コンサートホールなどが併設されている。)



鹿人画廊
数少ない蘇州のプライベートギャラリーで地域のアーティストや若者文化を牽引するのが鹿人画廊だ。展覧会ひとつひとつを大切にしている様子が伺え、しっかりと展覧会リーフレットも作り込まれていた。北京、上海、広州などとは違い蘇州は一歩引いている立ち位置の中でとても貴重な存在だろう。
 


これらに続いて紹介しなければならないのがSNDCC蘇州高新区文体中心だろう。このSCDNNには寒山美術館という美術館が併設されているが、それよりもその立地とこのSCDNNの役割が興味深く思え、表題にあるアートのコモディティ化について考えるきっかけになったのである。

高新区はハイテク企業などが新設したオフィスや工場、研究機関が立ち並ぶ蘇州の新しい経済特区だ。それらの企業に関連して住宅地も新興住宅の様相であり、高層マンションが立ち並ぶ。道路もしっかり整備され、どうやらSCDNNもそのインフラ整備とセットで建設されたのであろう。
(様々なワークショップやレクチャーが予定されている。)



ーインフラストラクチャー

SCDNNで一番興味をそそられたのが寒山美術館の施設としての設置のされかただった。美術館のすぐ横は体育館になっており、どうやらフロアマップを見てみると、図書館やコンサートホールも同列で設置されているようだ。何やら学校の「美術」「音楽」「体育」と行った並列感を思い出させる。新興する地域には文化的要素が欠落しがちだ。それはそこが新興であるだけに積み上げられた文化というか、そこの風俗性というようなものが希薄になりがちなのである。それはちょうど日本のバブル期にニュータウンなるものが建設されその中心には文化施設が必ず併設されたのと同じ光景である。すなわち、蘇州では美術作品そのものを論ずるというような美術の美術のための活動はそれほど求められておらず、美術館という看板を掲げた箱の中で何やら美術作品らしいものが展示されているという事実が欲されているとも思えてならない。ここに金鸡湖美术馆での展示作品が係ってくる。

(活版印刷のワークショップ)

(図書館の自習室)


(若手デザイナーの工芸展)


思い出させば、本色美術館での展示を除いて、絵画や彫刻といった美術作品を目にすることはなかった。確かにただの偶然かもしれないが、鹿人画廊のような小さな画廊までもが絵画とも彫刻とも言えないオブジェを展示していたのであった。美術の表現の中心とされる絵画や彫刻ではないもの。しかし、コモディティとして消費者の欲求を満たす「それらしいもの」、これが蘇州の美術の動向のように私は読み取った。美術が社会の中で果たす役割は視点によって様々だが、ここ蘇州では美術はコモディティ化し、エンターテイメントとして、インフラとして、この都市のおそらく不可欠なものとして扱われている。しかしそう扱われることで、美術という存在の不可欠さが消費社会の需要と供給の中で肯定されるのである。あと10年後、金鸡湖美术馆はどのような立ち位置を気づいているだろかという思いが旅の最後に残った。



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